ないまぜ日記

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一番大事なこと

向田邦子が脚本を書いた「あ・うん」というドラマが大好きです。脚本も出版されていますが向田本人が小説化もしています。

このドラマを初めて見たのはまだほんの子供でした。母がこのドラマを好きだったので一緒に見ていたのでしょう。その頃はドラマの内容など殆ど分かっていなかったと思います。向田邦子が飛行機事故で亡くなって、戦友と言っても良い久世光彦が向田のエッセイを原案にして毎年お正月にドラマを作っていました。毎年楽しみにしていたものです。「あ・うん」が再放送されたのはいつだったのか。ビデオ録画したのでもう20年くらい経つのかもしれません。子供の頃以来にこのドラマを見て、これほど凄いドラマの脚本を書く人がもうこの世にいない事を心から残念に思いました。

「あ・うん」では主人公のさと子(岸本加世子)のナレーションにこうあります。

一番大事なことは人に言わないということが判りました。
言わない方が、甘く、甘酸っぱく素敵なことが判りました。

向田には年上の妻子ある男性の恋人がいました。不倫ですから愛人と言った方が良いのかもしれません。それは死後もずっと伏せられたままでした。相手の男性は自殺して二人の関係は終わってしまいます。この事を彼女は死ぬまで胸に仕舞い込んでいたのです。

ドラマの中で一番大事なことは人に言わないと理屈を作って自分に言い聞かせたのではないか。言わない方が素敵だと強がっていたのではないか。なんて残酷なのだろう。なんてやるせないのだろう。向田邦子と言う人は希代の嘘吐きだと思います。この言葉は向田邦子の本音であり嘘だと思うのです。だからこんなに胸に染み入るのだと思います。一番大事なことを胸に仕舞い込む事が甘酸っぱく素敵であればあるほど、それを表に出せないやるせなさがどれほど根深いのか考えると哀しい。

「Spooks(MI-5)/S5-ep5」でハリーとルースが別れるシーン。これまで見てきた映画やドラマの中でも指折りの別れのシーンです。このシーンを初めて見た時に思ったのは、ハリーとルースの関係が「あ・うん」の門倉修三と水田たみに似ているということでした。吉村実子が演じるたみは決して美人じゃないけれど、思慮深い良妻賢母でありながら実はかなりの天然ぼけ。そこに門倉は密かに惚れているのです。まるでハリーとルースじゃないか。

Leave it as something that was never said.
Something wonderful... that was never said.
あなたが言いたいその何かは言わずにとっておいて。
その素敵な何かは決して口にしないで。

このシーンが撮影されたロンドンのドックは行ってみたいと思いつつ、何度か機会があったのに行かず仕舞です。なぜ行かないのか。一番大事なことはそっとしておきたいから。素敵な事はとっておきたいから。なんとなく、そう思っているらしい。何しろ、あのドック、なかなか行き難い所でもあるのです。
うーん。私ってこんなにおセンチだったのかぁ(苦笑)。

「Spooks(MI-5)/S10」を見直していたら、どうして高々TVドラマのことで落ち込まなきゃいけないのか訳が分からなくなってきました。それなのにハリーとルースの別れのシーンを見直して深い溜め息をついている。傷口に塩を塗るようなことをなぜやるのか。マゾなのか?